※撮影車両はコンセプトカーです。実物と異なる部分があります。
車中ライフのスペシャリストたち
03.SPECIALIST-Alpha Tec
生命讃歌の飯動画職人
「自分にも作れそう」と誰もが思える、そんな「動画職人」でいたい

焚き火の上に置かれた熱々のフライパンに、分厚くカットされたステーキ肉が無造作に投げ込まれる。脂が飛沫を散らしながら、肉汁のこぼれ落ちる瞬間を捉えたその映像を眺めているだけで、さっき食事を済ませたばかりの腹の虫が騒ぎ出し、思わず白い飯がほしくなるほどだ。彼の料理動画は、なぜこんなにも美味そうなのか。 彼とは、この投稿動画の投稿者ALPHA TECさん(以下、ALPHAさん)。こうしたシズルたっぷりな「キャンプ飯」動画が、SNSを中心にこれまで何度も話題になった。チャンネル登録者数は33万人を超えており、いま現在も増え続けている。

普段のALPHAさんは、店舗の看板や電光掲示板などハードの取替・修理をする看板職人であり、ソフト面では不動産業向けのグラフィックやデザインを制作する個人会社を営んでいる。動画の投稿は、もともと好きだったキャンプの際に、なんとなく動画を撮ったことがきっかけだった。投稿するや、コメントが返ってくる動画投稿の面白さに気づき、それからキャンプの度に動画を撮影するようになったそうだ。

腹が減るってことは、たぶん、生きたいってこと

ALPHAさんに、どうしてあんなにも食べ物が美味そうなのか尋ねてみると、過去にがんサバイバーとして大病を経験したことが、食べることへの意識を大きく変えたと話してくれた。あらゆる治療を試しては再発し、医師も投げ出した自分の身体のために最後にできることとして行き着いたのが「いま食べたいものを食べる」ことだった。どんな時も、その瞬間に自分が食べたいと思ったものを作って、食べる。思わず動画の中で漏らす「うめえ」というあのセリフには、彼のステーキ動画が不思議と人を惹きつけて止まない理由のすべてが込められている。

そんなALPHAさんが、今回BLACK GEARとともに向かったのは、秋の奥秩父。ここで季節ならではの食材を味わおうと、絶景の滝を間近に見れるキャンプ場へ向かって車を走らせる。荷室に調理道具や食材を目一杯積んでいても、細い山道や高低差のある坂をスムーズに抜けていくタフなBLACK GEARの走りに、思わず「うめえ」のときの、あの表情がこぼれる。

腹空かせたら、おれの勝ち

大病も、動画投稿も、仕事も育児も、あらゆる経験がALPHAさんに変化をもたらし、彼を次に向かうべき場所へ突き動かしてきた。

冒頭で触れた巨大な肉塊やソーセージを焼き上げるダイナミックな動画から、火の起こし方、車中で手軽にできるちょい足しアレンジのような、痒いところに手が届く豆知識やお手軽調理レシピまで、いまや彼のチャンネルにはアウトドア料理に必要なノウハウがこれでもかと詰めこまれている。彼の料理のポリシーは、まず第一に、豪快であること。肉なら薄いより分厚い方が好ましく、冷めたコーヒーやスープより、沸騰直後の湯気立つくらいがちょうどいい。「そっちの方が、なんでも美味しそうに見えてくるでしょ? 羨ましいな、おれも食べたい、自分でも作ってみたいなと、観てくれた人の気持ちをそんなふうに動かせたら、おれの勝ちなんだよ」(ALPHA TEC)

味の記憶

道すがら通りがかったチーズ工房へ寄り道し、地元の行きつけの肉屋で手に入れたソーセージと何か美味い食べ合わせがないかを考える。目的地のキャンプ場に併設されたきのこ園では、サービスで立派な舞茸と栗をいただいた。昼のおやつに焼きたてのホットドッグとコーヒー、日が暮れたら、クルマで栗ご飯を炊きながら、いっそきのこ鍋はどうだろう。きっと美味いぞ。そんな風にレシピを考えているときに、いつも思い出されるのは、まだ幼い頃、父に連れられて兄弟と出かけたキャンプの記憶だ。

「昔はキャンプ道具など無くて、小型のプロパンボンベに鋳物の大きなガスバーナーで作ったインスタントラーメンを初めて親父に食べさせてもらったとき、思ったよ。どうして外で食べる飯はこんなに美味いんだろうって」(ALPHA TEC)

ふとした瞬間に他人の記憶に触れることで、初めてわかることがある。もしかすると、今でもその味が忘れられなくて、その驚きと感動をALPHAさんは動画を通じて、我々に伝えようとしてくれているのかもしれない。

旅先で料理を作るなら、できればその土地でしか手に入らない旬の食材を手に入れたい。荷室には、いざというときのために、厳選したこだわりの調理道具を積み込んでおきたい。食材を手に入れたら、近くのキャンプ場に停車して、すぐに調理タイムだ。雨の日は荷室のベッドでコーヒーを沸かしたり、メスティンで米を炊いてみるのも雰囲気が出て、普段より美味しく感じることだろう。火を使いたければキャンプ場に併設した場所で、ルールを守って調理しよう。土地のルールと食材に合わせてぴったりの調理法を選ぶ。そして必ず、ごみは持ち帰る。車中「飯」を楽しく続ける基本だ。
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こだわりの調理道具があるなら、少しかさばってでも持って行くべきだ。例えばドイツ製の鉄でできたフライパン。それでなければ作れないステーキがある。長物はベッドキットの下へ。こだわりの道具はサイドマルチパイプラックに掛けておくとすぐに使えて便利だ。
食材を求めて旅をするクルマ選びなら、どこへでも躊躇なく進んでいけるようなパートナーがいい。アスファルト、砂利、未舗装の山道を抜けたところにあるキャンプ場にも、ためらいなく突き進むBLACK GEARは見た目にもそんな気分にうってつけだった。
秋の夕暮れは思いのほか早い。キャンプ場に到着したら、まずはESリヤパイプラックに光源をかけよう。そうすれば暗くなっても安心だ。リヤハッチを開けて調理空間を拡張することで、車中と車外に一体感が生まれる。
時間は常に有限で、熱源確保はライフラインにとっても重要。カセットコンロなど火を起こしづらい車内では、ポータブル電源と電磁調理器の組み合わせがベストな選択だった。室内幅1,520㎜、荷室高1,325㎜の車内空間なら十分な広さだし、リヤハッチを開けておけば換気も簡単だ。
水も、食料も、そこでしか口にすることができないものを味わう瞬間が車中「飯」のスリリングな瞬間だ。旅先でその土地の食材を求めクルマを走らせていると、ふいに小さなお店を見つけたり。そういうところに限って良い品を揃えていたりする。