クルマの静粛性はスーツの裏地。
買ってくださったお客さまをがっかりさせないことは日産とお客さまの約束です。

「日産アリア」を生み出したマイスターたち

企画・先行技術開発本部先行車両性能開発部・総括グループ(音振性能)エキスパートリーダー
榎本 俊夫

エンジニアリング・モンスターでは、 「ニッサン インテリジェント モビリティ」の象徴として日産の技術の粋を集めた「日産 アリア」の開発に携わったエンジニア達のインタビューから、このクルマに込めたエンジニアとしてのこだわり、革新的な技術を生み出した開発の裏側、そして「日産 アリア」に息づく日産のDNAをオリジナルコンテンツとしてお届けしていきます。

今回は、日産車の音振性能を統括する榎本が、プレミアムクロスオーバーEVにふさわしい静粛性とはどのようなものかをお伝えします。

榎本 俊夫

企画・先行技術開発本部先行車両性能開発部・総括グループ(音振性能)エキスパートリーダー

住環境に匹敵する「日産 アリア」の静粛性

「まるでリビングルームのよう」。
ソファのような座り心地のシート、窮屈感のない空間など、車内の居心地のよさを表す言葉として用いられる言葉ですが、私は「日産 アリア」の高い静粛性を「リビングルームのよう」と伝えています。
走行中、車内に入る音の発生源は大きく分けると“エンジン”“タイヤ”“風”の3つで、一般道の速度域である50~60km/h程度でも工場並みの大きな音がしています。

みなさんはこのような経験がないでしょうか。 高速道路を走行しながら気持ちよく音楽を聴いていたけれど、サービスエリアでクルマを停めたら音楽の大きさに驚き慌ててボリュームを絞った、というような。
人間の脳は賢くて、うるさい環境にいると脳が自然に騒音を聞かないようにします。
この時、音楽の音もシャットアウトするので、ついボリュームを上げてしまうのです。
「日産 アリア」は住環境並みの音振性能を目指して開発し、それを達成することができました。
だから私は「リビングルームのような静粛性」と表現しています。

「日産 リーフ」が音振性能のターニングポイントに

エンジンとモーターでは発生する音の周波数が大きく違います。88鍵あるピアノを想像してください。
V6エンジンが3000回転で走っている時の音は150ヘルツ前後で、ピアノだと鍵盤の真ん中より左側くらいです。
ところがモーターは走り出すとあっという間に鍵盤の右端――数キロヘルツの音に達します。
これをエンジンと同じレベルの音量で聞くと耳が痛くて仕方ないでしょう。
日産は「日産 リーフ」がデビューする前から電気自動車を少量生産していました。
ただ、この頃はまだモーターでクルマを走らせること自体が大変なことで、音振性能にまで意識を向けられていなかったのが正直なところです。
量産EVの「日産 リーフ」を開発する時、走行性能はもちろん静粛性においてもエンジンとはまったく異なる価値観を生み出すことを目標に掲げました。2010年にデビューした初代「日産 リーフ」でそれを達成することができ、「電気自動車ってこんなに静かなのか」という世界のスタンダードを作ることができたと自負しています。

「日産 リーフ」は私にとって“音”に対する考え方のターニングポイントになりました。
エンジンを搭載するクルマは歴史が長いので、音振性能を決める際もエンジン、タイヤ、風という騒音源のバランスはこれくらいが適正という“法則”があります。
エンジンがない電気自動車は、考え方を根本からドラスティックに変える必要に迫られたのです。
「日産 アリア」を開発するにあたり、私たちは“法則”がない中で最高水準の静粛性を生み出すことが使命であると考えました。

音振性能にはひとつですべてを解決できる飛び道具的な技術は存在しない

日産は音に対する制御にかなり早い段階から取り組んでいます。車内に入るノイズに対して逆位相の音をぶつけるアクティブ・ノイズ・コントロールは1990年代初頭にリリースしました。エンジンマウントの中に電磁石を組み込み、その力で音や振動をキャンセルするアクティブコントロールエンジンマウントは1990年代後半に実装しました。

e-4ORCE、プロパイロット2.0など、「日産 アリア」には革新的な技術が多数搭載されています。
しかし音振性能はどちらかというとトラディショナルな技術で性能を高めています。
静粛性の領域には「これでノイズを一網打尽」という技術はなく、地道な努力の積み重ねで成り立っています。
これはプレミアムEVの「日産 アリア」でも変わりません。
長年のクルマづくりで培った知見と、「日産 リーフ」を10年間作ってきた経験。これこそが「日産 アリア」の音振性能の真髄です。

「日産 アリア」は加速の意図がない時は、モーターが動いていることさえわからないレベルまで音を消しています。
そしてアクセルを強く踏み込むと、ドライバーへのインフォメーションとして耳障りにならない程度のモーター音が聞こえるようにしました。タイヤや風の音も様々な形で隔絶しています。

「日産 アリア」でロングドライブに出て会話を存分に楽しんでほしい

クルマの静粛性とは、スーツの裏地に近いものです。
裏地に惚れ込んでスーツを選ぶ人はほとんどいないと思いますが、裏地がいい仕事をしないと、せっかくのスーツが台無しになります。
静粛性も同じ。
価格やブランドイメージに見合うだけの静粛性を与えることは、日産とお客さまとの約束だと私は考えています。

「日産 アリア」がお手元に来たら、ぜひフル乗車でロングドライブに出かけてほしいですね。
隣の人との会話はもちろん、前後の席での会話も普通の声で楽しめること。
何よりロングドライブでも騒音による疲労度が一般的なクルマとは全然違うことに驚いていただけるはずですから。