限界性能は当然上げてます。さらに日常領域の性能も格段に進化。「これじゃなきゃダメだ」と感じられるクルマが「日産 アリア」です。

「日産アリア」を生み出したマイスターたち

パワートレイン・エキスパートリーダー
平工 良三

エンジニアリング・モンスターでは、「ニッサン インテリジェント モビリティ」の象徴として日産の技術の粋を集めた「日産 アリア」の開発に携わったエンジニア達のインタビューから、このクルマに込めたエンジニアとしてのこだわり、革新的な技術を生み出した開発の裏側、そして「日産 アリア」に息づく日産のDNAをオリジナルコンテンツとしてお届けしていきます。

前回に引き続き、今回もe-4ORCEを生み出した平工(ひらく)良三 エキスパートリーダーのインタビューをお届けします。
今回は、e-4ORCEを搭載した「日産 アリア」でしか味わえない乗り味について紹介します。

平工 良三

パワートレイン・エキスパートリーダー

e-4ORCEなら、コーナーの入り口ではFR、出口ではFFのように走ることもできます

一般的な4WDは、前後輪の駆動力を適切に配分していますが、加速時は加速に適した制御、制動時は制動に適した制御しかできません。
「日産 アリア」のe-4ORCEは前後に独立したモーターを搭載しているため、ただ駆動力を前後に配分するのとは別な方法で駆動力を緻密に制御できます。

例えば、コーナーでステアリングのキレを良くしたいと思ったら、コーナー手前でブレーキを踏んでフロントに荷重を移動(ノーズダイブ)させます。
ブレーキを踏んでいるので当然クルマは減速しますが、e-4ORCEはフロントモーターを回生させて前に荷重をかけながら、リアモーターを駆動させることができます。
つまり減速せずに荷重移動するので、コーナーを素早くクリアできます。
このアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような動きは、従来のクルマでは絶対にできない制御です。
また、e-4ORCEはコーナリング中に各車輪にかかる荷重をモニターしながら自在に変えることができます。
例えば、コーナーに進入する時はFRのほうがクルマの挙動が良くなり、コーナーの出口ではFFのほうが安定するという特性がありますが、e-4ORCEは車両状況をモニタリングしながら駆動配分や荷重配分をコントロールし、コーナー入り口ではFR、出口ではFFのように走ることができます。

他にも減速時のノーズダイブやコーナリング中のロールを抑えることで、すべての乗員が快適に移動できるようにしました。
しかも応答が速いモーターは制御をリアルタイムで変えられるので、ドライバーはクルマの制御に気づかず、運転が上手くなったと思うでしょう。

乗り味の差が少ないモーターで“日産らしさ”を出すには何をしたらいいか

日産の技術者は、制約があるほど「だったら我々の力でなんとかしてやろう!」と魂に火がつくタイプが多いように思います。
「次世代トランスミッションはCVT一本で行く」という方針が示された時も「大排気量車にCVTは無理と言われているが、それなら我々で作ってやる」と思い、初代ムラーノにCVTを搭載しました。

日産の技術を象徴するATTESAやインテリジェント4×4も、逆境の中で技術者が諦めずにどうやったら他社に負けないものを作れるか、知恵を絞って生み出した技術です。
目の前にある難題が大きければ大きいほど「なにくそ!」と思って取り組むのは日産の伝統かもしれません。

エンジンには直列やV型などいろいろな種類があり、排気量や気筒数もさまざまです。
さらに燃費がいいもの、パワーが出るものなど、多くの特徴があるし、自動車メーカーごとに味付けも異なります。

しかし、モーターの乗り味は一般の人にはわからないくらいの差しかありません。
そこで“日産らしさ”を出すためには、その使い方を徹底的に工夫する必要があります。
これこそ日産が最も得意とすることです。
日産は初代リーフを出した頃からモーター制御の新たな可能性を考えていました。
ノート e-POWERに搭載したe-POWER Driveはその入り口でした。

あらゆる道で「なんかいいな」と思える。それはe-4ORCEの制御技術

2001年以降、主に私は技術戦略を立てる仕事を担当してきました。
社内では戦略力養成講座を企画し、若い社員に戦略の大切さを教えています。
そういうこともあり、自分が関わる仕事でもきちんと戦略を立てた上で進めたいと思っています。
「日産 アリア」の商品戦略を考えると、単にモーターを前後に2つつけて「すごいですよ」ではなく、勝つためにやるべきことを考えて、日産のアイコンとなる商品にしたいと思いました。
それがe-4ORCEです。

「日産 アリア」はSUVですので、悪路でも力強く走れる4WD性能をイメージする人もいるでしょう。
しかしe-4ORCEは従来の2WD/4WDという概念ではなく、2つのモーターを使ってどれだけ操縦安定性を高められるかを追求した技術です。
その意味で、自信をもって「『日産 アリア』は世界一のクルマです」と言うことができます。

お客さまにはそんな難しい話は気にせず、「日産 アリア」の心地いい走りを楽しんでいただけたらと思っています。
e-4ORCEを開発したエンジニアとしてあえて言うなら、高速道路やワインディングを楽しむのはもちろん、街中の普通の道を普通に走ってみてもらいたいですね。
きっと「あれ?なんかいいな」と感じてもらえるでしょう。
e-4ORCEは従来の制御技術と比較して限界性能は飛躍的に向上していますが、私は「いつか使うため」の技術だけでなく、「いつもの運転のため」の技術だと考えています。

そして、長く「日産 アリア」にお乗りいただくと、別のクルマを運転した時に違和感を覚えるかもしれません。
「日産 アリア」は、「やっぱりこれじゃないとダメだ」という、長年連れ添う伴侶のような存在になれるクルマになるはずです。