自動運転技術や電動化技術が進化してもクルマとしての土台が良くなければそれらは宝の持ちぐされになる。
その思いで「日産 アリア」を開発しました。

「日産アリア」を生み出したマイスターたち

チーフ・ビークル・エンジニア
中嶋 光

エンジニアリング・モンスターでは、「ニッサン インテリジェント モビリティ」の象徴として日産の技術の粋を集めた「日産 アリア」の開発に携わったエンジニア達のインタビューから、このクルマに込めたエンジニアとしてのこだわり、革新的な技術を生み出した開発の裏側、そして「日産 アリア」に息づく日産のDNAをオリジナルコンテンツとしてお届けしていきます。

今回は新しいEV専用プラットフォームを開発し、「日産 アリア」の開発を取りまとめた中嶋 光チーフ・ビークル・エンジニアが、「日産 アリア」の中に盛り込んだ日産らしさについて語ります。

中嶋 光

チーフ・ビークル・エンジニア

CVEがやるべきことは、日産の新しいEVならではの価値をお客さまに届けること

学生時代からクルマが好きで、中でもU12型ブルーバードに搭載されたフルタイム4WDシステムである"ATTESA"の熱い走りに憧れました。
日産に入社後はマフラーの設計を担当。
次にサスペンション設計の担当となり、V35~V37スカイラインなどの足回りを作ってきました。
そして4年半前からチーフ・シャシー・エンジニアとしてEV専用プラットフォームの先行開発に携わり、2年半前からチーフ・ビークル・エンジニア(CVE)として、「日産 アリア」の開発を取りまとめています。
「日産 アリア」は、新しいEV専用プラットフォームを採用したモデルとして、真っ白な紙の上に一から線を引くことができたモデルです。
その中で新しい電気自動車はどうあるべきか、日産らしい走りとプレミアムで上質なEVの姿をどう融合させるかを考えて形にしていくのはとても難しい仕事でした。
1つ例をあげると、プレミアムなSUVとして広いキャビンやEVらしいフラットなフロアは欠かすことができません。
「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」をテーマにした、力強く、モダンなデザインも「日産 アリア」にとって絶対に必要なものです。
これを実現するため、パワートレインをはじめ、さまざまなユニットを限られたスペースの中に入れ込み、さらに万が一衝突事故が起きた際に力を分散させて乗員や歩行者を保護することを考えていくのは困難を極めました。
プラットフォーム、ボディ、パワートレインなどの関係者で何度も協議し、ミリ単位の調整を何度も繰り返しました。
途中で「フロントオーバーハングをあと数十mm延ばせないか」という話もあがりましたが、そこで妥協するとデザインをはじめとするアリアの価値が下がってしまいます。
アリアの開発責任者としてやるべきことは、日産の新しいEVならではの価値をお客さまに届けること。
そのために難しい開発にもチャレンジしたのです。

先進技術と、シャシーというクルマの根幹を高次元で融合させる

私はサスペンション設計に携わるようになった頃から、いつかCVEとして一台のクルマを作り上げたいと思いながら仕事を続けてきました。
しかし「日産 アリア」のCVEを命じられた時、嬉しさよりもとまどいのほうが大きかったのを覚えています。
「日産 アリア」は日産が持つさまざまな先進技術を詰め込んだ、未来の日産の方向性を示すアイコンとなるモデルです。
そんなクルマをこれまでシャシー設計しか経験の無い私が取りまとめられるのかと思ったのです。
そんな時、先進運転支援技術であるプロパイロット開発がスタートした頃にある方から言われた言葉を思い出しました。
「高度な自動運転を実現させるためには、さまざまなセンシング技術からシステムが導き出した指示通りにクルマを正確に走らせなければならない。
そのためには優れたシャシー性能が重要なのだ」
「プロパイロット 2.0」を使ってお客さまがリラックスしながら移動するためには、クルマが車線の中央を走行し、システムがハンドルを切った分だけ正確に曲がらなくてはなりません。
わずかでも反応が遅れたりふらついたりしたら、とてもシステムに運転を委ねることはできないでしょう。
また、せっかくモーターによる静かな走行を提供できても、走行中の振動やノイズがキャビン内に伝わってしまったら心地よさは半減してしまいます。
優れたシャシーの開発は、一朝一夕でできるものではありません。
長くクルマを作ってきた中で得た知見があってはじめて成し遂げられるものです。
「日産 アリア」に搭載される先進技術と、シャシーというクルマの根幹を高次元で融合させる、それこそが私がアリアのCVEとなった意味合いであると考え開発に取り組むようになりました。

開発者の使命は、将来のクルマの使われ方、人とクルマの関係性を定義し、お客さま・そして社会をそこに導くこと

「日産 アリア」の開発では、充電性能や航続距離、そしてe-4ORCEなど、EVの先駆者として、EVにまつわる性能を妥協するつもりは一切ありませんでした。
そしてもう一つ、長くシャシー開発に携わってきたエンジニアとして、「"走り"がしっかりしていなければ日産車ではない」と考えていますので、「日産 アリア」のCVEを任された時、私は自分の集大成として日産らしいプレミアムな体験を提供できるEVを設計しようと決めました。
私はまず、お客さまが「日産 アリア」で300m走っただけで「アリア、いいねえ!」と感じられるクルマを作りたいと思いました。
具体的には、お客さまが「日産 アリア」に乗り込んでドアを閉めた時にシーンと静けさが訪れ、イルミネーションがお客さまを優しく包む。
そして、アクセルを踏むと静かに、滑らかに加速する。
これこそがEVとしてもプレミアムカーとしても、もっとも重要なことだと思っています。
もう一つが日産ならではのスポーティな走りをしっかり味わえるクルマにすることでした。
e-4ORCEでは日産が10年以上も開発および生産を続けてきたリーフの電動車の技術、そしてR32型スカイラインGT-Rに搭載されたATTESA E-TSのスポーツ4WD制御技術、そのDNAを盛り込むことで、ワインディングも楽しく駆け抜けられるクルマに仕上がると確信しています。
「これは"走りの日産"が作ったプレミアムEVだ」
「日産 アリア」のステアリングを握ったら、きっとそう感じていただけるはずです。
時代の変化とともに、クルマに求められる価値も大きく変わりました。
その中で日産はどのようなクルマを作って社会に貢献するべきかを常に考えてきました。
我々開発者の使命は、将来のクルマの使われ方、人とクルマの関係性を定義すると同時に、お客さま・そして社会をそこに導いていくことだと思っています。
「日産 アリア」はその道標になるモデルになると自負しています。