紆余曲折の末、行き着いたコンセプトは「ゆるさ」
2代目キューブ
2代目で意識されていた「ゆるさ」
エクステリアもインテリアもクールで親しみやすいデザインのキューブ。実は細かいパーツに至るまで、深く練られた「コンセプト」に基づいて作られています。

「ゆるい雰囲気を持った車作りたかった」とは2代目のエクステリアデザインを担当した桑原弘忠の言葉。コーヒーを飲みながらラフスケッチを描いたそうで、「キューブ=ゆるい雰囲気」というイメージは2代目の頃からあったといえます。

そしてこの「ゆるさ」は、2008年に登場した3代目に引き継がれることになりました。でもそのコンセプトは、そうそう簡単に決まったわけではないようです。
苦悩の末に行き着いた「純化」
「カーデザイナーの仕事は、本来はスタイリングチェンジなわけですが、キューブという車の場合、もう少しこの車のあり方についてよく語ってからじゃないと形をいじってはいけないと思いました」と、3代目のインテリアデザインを担当した早川忠将は話します。

当時、3代目キューブは国内だけでなく海外にも販売されることが決まっていたそう。そのような事情もあり、3代目を作るにあたっては「コンセプト作り」がかなり重要だったようです。
「新しいキューブを作る中で『新しくする』っていう考え方は、難しいと感じていました。それで、苦しんだ末ようやく見えたのが、『進化ではなく純化』という考えでした」

クリエイターならではの産みの苦しみがあったというわけですね。そしてキューブの「純化」というビジョンが誕生します。それでも、これはまだまだ「キーワード」段階。コンセプトにも行きついていません。この言葉が形となるまでには、まだまだ長い時間がかかることに……。
3代目キューブの初期デザインスケッチ群
チーム全員でコンセプト作り
デザインの初期段階は、コンセプトメイキング→スケッチを展開→アイディアを絞り込むという流れで行われるそうですが、3代目キューブはこの最初の段階「コンセプトメイキング」に特に時間を割いたそうです。

「キューブのデザイナーチーム全員で、2代目キューブをどう解釈しているかを、ビジュアルや言葉で持ち寄って理解を深めたりしました」と、早川は懐かしそうに当時を振り返ります。

このようにコンセプトを長期にわたり詰めてなかなかスケッチを描かないというのは、かなり異例なやり方だったそうです。そしてこのコンセプトメイキングのなかで「ゆるさ」という言葉が登場するわけですが、それでもまだまだ話は終わりません。
国籍を超えたやりとりを何度も超えていく中で少しずつ洗練されていったという3代目キューブ。
グローバルなチームだからこそ生まれた「Peaceful」
実は当時のデザインチームはかなり多国籍。外国人のデザイナーには「ゆるさ」という日本人独特の感覚がピンとこない人もいたといいます。

「感覚的なことなのでイメージの共有はお互いに大変でした。ドライブ中、割り込まれたりしてイライラするような場面でも、『ま、いっか』とイライラしないでいられる車にしたかったんです。だから『ゆるい』という言葉は『ウォーム』で『ピースフル』なものと説明しました。そうやって話していくうちに『Peaceful』も3代目のコンセプトの一つになったんです」

グローバルなメンバー構成ゆえのせめぎ合いが続いたそう。チームで熱く語り合ううちに3代目のコンセプトがどんどん成熟していきます。
3代目キューブのインテリアのひとつひとつにデザイナーたちの思いが込められている
具体化されていく「ゆるさ」
そして「ゆるさ」という言葉はいよいよ具体的な形になっていきます。

「ファンクショナル(機能的)なものとエモーショナル(感情的)な価値の両立を目指したかったんです。遊びというかウィットというか、デザインにホッとするスキをもたせることを意識しました」と早川。

自分で使っていくうちに、だんだん馴染んでくるようなものを造りたい、という思いがインテリアのデザインに込められていきました。

「ハンドクラフト的な温かみ。それも意識しました。2代目キューブにはこれでいい、という感じと、これじゃなきゃ嫌だという感じが同居していて、ボロくなっても使い続けたいという感覚がありました。そういうニュアンスを3代目も表現は変えても引き継ぎたいなと」

そう語る彼の声は、まさに今新しい車のデザインを考えているようなパワーがこもっています。彼がデザインのときに意識したさまざまなものは、そのままキューブの魅力となって今も多くの人を惹きつけるものに。ぜひ、キューブの座席で「ゆるさ」という言葉を思い出してみてください。