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「親方」の生き様を体現する
寡黙で優しき鳶一代
現場の花形、「鳶」
現場の花形、「鳶」
朝8時。建設現場の片隅にあるその日の作業員たちの詰所は、小雨の肌寒い屋外とは対照的に、中にいる職人たちの人いきれで蒸すほどだった。その一角で和やかに談笑する数人の表情が、一人の男の呼びかけで、一様に引き締まる。――池永力、その人だ。
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池永の仕事は、鉄骨を使って柱や梁を組んだり、作業用の足場を作る「鳶」である。一般的には、鉄骨鳶・足場鳶とも言われる仕事だが、働く現場の多くが高所であるうえ、優れた技能を必要とするため、建設業の中では特に“花形”とされる存在だ。中でも池永のように、鉄骨と足場、双方の現場を担うことのできる鳶は珍しい。
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誰が決めたわけでもなく、自然と詰所のいちばん上座は、池永の定位置となる。その大きな体躯を席に収め、今日一日の作業を静かに語り始めると、若い鳶たちが、その言葉を一言も聞き漏らすまいと耳を傾ける。
池永は、いつも静かに言う。「鳶っていうのは、現場全員の職人から常に見られている存在なんです。仕事はもちろん、挨拶やゴミ捨て一つに至るまで、おれたちが手抜きをすれば、現場全体の士気に少なからず影響する。そういう立場だから、何一ついい加減なことはできないんですよ」
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「一人親方」になる気はなかった
「一人親方」になる気はなかった
鳶の中には、従業員を抱えることなく単身で様々な現場に赴く「一人親方」という存在がいる。彼らもまた現場を支えるプロとして、なくてはならない存在だ。「でも、おれは一人親方になろうと思ったことは一度もないんだ。何でだろうね」
池永が鳶を目指したのは19歳。知り合いの紹介で入った解体工事の現場で、軽やかに働く鳶の姿に目を奪われたのがきっかけだった。
「何本もの足場材を『玉掛け』できれいに束ねて釣り上げてね。無線で指示するその姿が、まあ格好よくて。その瞬間『おれ、あれになりてえ』と思った」
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そうして思い立つや未経験のまま鳶の世界へと飛び込んだ池永だが、持ち前の根性と丁寧な性格もあって、すぐに現場で評価されることとなる。足場の他にも、難易度の高い鉄骨を組み上げるスキルも自ら学びとった。「誰も教えてくれねえからさ、地上十数メートルの鉄骨の上で腕のいい鳶に聞いてみたんだ。『それ、どうやんの?』って」
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やがて30歳を目前に独立し、自らの会社「池永組」を設立。仕事の規模を拡大していく。
「突き詰めるからには、大きな仕事を取って金も稼ぎたい。当然だよね。でもそのためには、自分が中心になって、みんなと一緒にやっていくのがいいと思った。一人でやろうとは、思わなかったんだ。もちろん社員を抱えるってのは、大変だよ。仕事がないときも補償しなくちゃいけないし、事故や怪我のリスクもある。でも、それを初めから背負う覚悟がおれにはあった。『仕事ってそういうもんでしょ?』って気持ちしかなかったんだ」
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親方として、次代へつなぐ
親方として、次代へつなぐ
建造物の解体がいくつも重なる現場で、池永たち鳶は、全体の工事の流れや進捗を見極めながら、足場をつくり、バラし、また別の場所に設置していく。

「足場を使う職人の仕事をイメージして、高さや建物との距離を決めているんだ。足場ってのは、解体や建築のために作られるけど、いずれはなくなるもの。だからこそ尊いんだよ」
作業の合間に大きな声で池永の指示が飛ぶ。「ハイッ」と答えて職人が動く。その無駄のない動きに、池永組の結束の強さを感じる。
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そんな池永が何より嬉しそうに語るのは、さらなる未来の話だ。「ゆくゆくは、今の若い衆がそれぞれ自分の仲間を抱えられるようになってもらいたい。彼らの成長が、一番の楽しみなんだ」
そう言って池永がこちらに向けた顔は、仕事中の厳しい顔ではなく、親方と慕われるに足る、人なつこい笑顔だった。
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――最後に、池永にとって「鳶」のプロフェッショナルとして、必要なものを尋ねた。

「まずは怪我せず、無理をしないこと。そして仲間にも怪我させず、無理をさせないことが一番だ。そのために、一人一人が小さな作業もおろそかにしないこと。はじめにも言ったけど、鳶っていうのはそういう仕事だから」
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1967年6月10日
(愛媛県伊予郡)

職種:鳶職

職歴:32年

会社名:有限会社池永組

「買うなら広ければ広いほどよかった」という池永が選んだ車体は、GXのワイド幅 ハイルーフ。荷台に荷物を積み込んだり、職人仲間を乗せたり、ベッドキットを使って仮眠を取ったりと、余すことなくその広さを活用している。