REPORT Vol.02

“英知を宿すモンスター”のキャッチフレーズを冠した新世代クロスオーバーEV、日産アリア。そのパワートレインには、総電力量66kWh(B6)/91kWh(B9)の2種類のバッテリーと2WD/e-4ORCE(4WD)の駆動方式を採用した、計4タイプのモデルを設定している。その特徴と魅力を、車両実験部の吉田正樹氏と、操安乗心地性能設計グループの富樫寛之にインタビュー。すると、ベーシックグレードのB6 2WDモデルはシャシー性能の余裕が魅力だという言葉が返ってきた。開発者が傾けたクオリティーを追求する情熱と、その自信のほどを探る。

従来のEVにないスポーティーな走りが生まれた。

吉田 正樹(よしだ まさき)
カスタマーパフォーマンス&CAE・実験技術開発本部&第一車両実験部Nissan第一商品性&実験統括グループ 主管
アリアの車両実験を統括する重責を担った、開発のエキスパート。アリアについては、「“EVのある生活”を新しく提案する、日産の新世代モデル」と力説する。

 “ニッサン インテリジェント モビリティ”の新しい象徴モデルの役割を担って登場した新型アリア。日産が培ってきた電気自動車のノウハウと最新のコネクテッド技術を融合させた新世代クロスオーバーEVのキャラクターについて、まず車両実験部の吉田が語りはじめた。
「アリアは“英知を宿すモンスター”のコンセプトを掲げています。これはクルマにおけるインテリジェンス、すなわち走りの滑らかさや高い静粛性など、EVの持っている基本特性を高度に具現化したうえで、パフォーマンス面での“モンスター”、具体的には走行状態や路面状況に合わせてEVのパフォーマンスを最大限に引き出すSPORTモードを採用して、従来のEVにはないスポーティーな走りを実現しました」

 また、吉田はアリアの室内空間の特徴、具体的には広いキャビンルームの創出や、最新のIT技術を組み込んだことにも言及する。
「新開発のEV専用プラットフォームの採用によってフラットかつ広々としたフロアを生み出すとともに、従来室内に配置していた空調ユニットをモータールームに配することで、広い足元空間を確保したこともアリアの特徴です。さらに、最先端のITを組み込んで機能性と安全性を大きく高め、“EVのある新しい生活”を提供できるようにアレンジしました」

4つのパワートレインを設定。四者四様の個性。

 続けて吉田は、アリアに設定した4つのグレード、66kWhバッテリー搭載のB6(2WD)とB6 e-4ORCE(4WD)、91kWhバッテリー搭載のB9(2WD)とB9 e-4ORCE(4WD)の、それぞれのキャラクターについて解説する。
「B6の2WDは、アリアのラインアップの中で最も軽く、EVならではの軽快でプレミアムな走りがストレートに、かつ存分に体感できるベーシックモデルです。また、B9の2WDは、B6の2WDに対してより遠くへ行きたい、長距離ドライブをする機会が多いというユーザーに向けたモデルで、航続距離はシリーズで最長を実現しています。一方、B6のe-4ORCEは路面状況を気にせず、安全・安心にドライブできるモデル。EVパワートレインとの組み合わせによる新たな4WD走行を体感できる仕様でもあります。そしてB9のe-4ORCEは、今まで述べてきた特性の集大成といえる旗艦グレードで、上質かつ安全・安心な走りと、ゆとりのある航続距離を高度に実現しています」

B6の2WDが見せる、基本性能の高さ。

 さらに吉田は、「4つのグレードの中でも、EVならではのトルクフルな走りが最も顕著に味わえるのは、B6の2WD」と付け加えた。
「低速から大きなトルクを発生するEVパワートレインに、軽い車重で構成したB6の2WDの走りは、アリアの中で最も軽快性に富み、アリアの持つ基本特性が心ゆくまで感じられるモデルです」

富樫 寛之(とがし ひろゆき)
カスタマーパフォーマンス&CAE・実験技術開発本部 車両性能開発部 操安乗心地性能設計グループ 主担
(兼)パワートレイン・EV技術開発本部 パワートレイン・EV性能開発部 燃費/動力性能計画・PT性能統括グループ 主担
アリアの操縦安定性や乗り心地などをチューニングした、操安のスペシャリスト。アリアについては「今までのガソリン車にはなかった、このクルマ独自のドライビングプレジャーを、ぜひ多くのユーザーに楽しんでほしい」と語る。

 続いて、操安乗心地性能設計グループの富樫が、アリアB6の車体構造の特徴、そしていかにして高いレベルの操安性と乗り心地を実現したのかを解説してくれた。
「アリアは新開発のEV専用プラットフォームの導入によってバッテリーを支える箇所の剛性が向上し、さらにシャシーシステムにも高剛性な部品を採用するなどして、操縦安定性を向上させるだけでなく、揺れにくい快適な乗り心地と高い静粛性を実現しました。リーフに比べると、走りのランクが大幅に向上しています。私はリーフの操安乗心地も担当していますが、同クラスではリーフのシャシーはトップレベルです。アリアでは、それを上回る操安性と乗り心地を成し遂げています。リーフより1クラス、いや2クラス上のプラットフォームとシャシーシステムを、アリアは採用しているのです」

 富樫はさらに言葉を続け、B6の2WDならではの走りの特性に、ラインアップの中では軽量な車重が生かされていることを教えてくれた。
「どのグレードに乗ってもアリアの高レベルな走りを楽しめますが、B6の2WDは軽い車重ならではの独特の楽しさがあります。シャシーは元々、B9のe-4ORCEの高荷重までを想定して設計しており、B6の2WDではキャパシティに余裕があります。そのため、シリーズの中ではより軽快に、バランス良く走らせることが可能になっているのです」

目指したのは「シルクのような上質なタッチと軽快さ」。

Cap:EVの静かでトルクフルな走りを生かす上質な乗り心地と、俊敏なハンドリングを実現。

 あわせて富樫は、アリア全体のシャシーセッティングの特徴も解説。セッティングのコンセプトは、上質さと俊敏な走りの具現化にあったようだ。
「アリアはサスペンションとしてフロントにマクファーソンストラット式、リアにマルチリンク式を採用していますが、セッティングのコンセプトとして“シルクのような滑らかさ”、“滞りなく、無駄な動きのないミズスマシのような乗り心地”を掲げました。EVは静かでトルクフルな走りが特徴ですが、これを存分に生かす滑らかで上質な乗り心地を感じるよう、ダンパーやスプリング、スタビライザーなどを入念にチューニングしています。また、ステアリングシステムについては、2000kg余りの車重に達するEVに組み込んでも十分に余裕のあるキャパシティを確保し、スムーズで俊敏なハンドリング性能を実現しました。ちなみに、前述のB6の2WDの場合は、車重が軽い分、よりクイックなハンドリングと軽快な走りが楽しめます」

タイヤメーカーとタッグを組んで性能を追求。

 装着タイヤに関しても、アリアは徹底してこだわったと富樫は力説するが、タッグを組むタイヤメーカーとの議論も、かなり白熱したようだ。
「日産では3代目の新型ノートから新ジェネレーションの電動車用タイヤを採用しているのですが、アリアでは転がり抵抗をいっそう低減しながら、グリップ性能を高めました。コンパウンドにも新しいものを導入しています。共同開発するタイヤメーカーとのやり取りも、相当な数を重ねました」

 組み合わせるホイールについては、吉田がその特性を解説した。開発のメインテーマは、空力性能の向上とノイズの低減だ。
「アリアに装着するホイールは新設計の専用タイプで、サイズは19インチおよび20インチなのですが、いずれも空力性能を高める表面デザインで仕立てています。あわせて、ロードノイズを低減させるためのリム構造なども採用し、新世代のEVにふさわしい新ホイールを創出しました」

多様なドライブモードでも光る足まわりの緻密さ。

 アリア専用にセッティングしたドライブモードについて、改めて話を聞いた。2WDではSPORT/STANDARD/ECOの3モード、e-4ORCEではSPORT/STANDARD/ECO/SNOWの4モードを設定するが、それぞれにEVならではの走りの特徴を持たせたと吉田は語る。
「STANDARDモードは従来のガソリンエンジンを搭載する車から乗り換えても違和感のない、加速や減速の特性でスケージューリングしています。一方、日産のEVとして初めて設定したSPORTモードは、加速の鋭さやGのピークを高めることで、スポーツドライビングがより楽しめるようにセッティングしました。そしてECOモードは、新たに高速走行時においてアクセルを緩めたときに車が減速する力を弱めて、ス~と走らせることで、電気消費量を低減できるように設定しています」

 一方で富樫は、統合制御システムとなるプロパイロットが新生代に移行したことを強調する。「アリアに採用するプロパイロット2.0は、リーフなどに組み込む同機構よりも制御などをバージョンアップした、新世代のシステムです。乗り比べれば、はっきりとわかるほど進化していますよ」

電動化時代を担う英知を宿したニューモデル。

Cap:アリアは、EVならではの滑らかな走りや、高度なコネクテッド機能などで“EVのある新しい生活”を提供。

 最後に、これからアリアに乗るユーザーに向けてのメッセージを発してもらうと、吉田はユーザーを思い浮かべながら、力強い口調で語る。
「日産は現在、“EVのある生活”を新しく提案しています。クルマに乗っているときも乗っていないときも、シームレスに高度なコネクテッド機能を提供し、また音声サービスのAlexaを組み込んで、スマートホームデバイスのコントロールなどを音声のみで操作可能としています。EVならではの滑らかでトルクフルな走りとともに、今までにないクルマの価値を、ぜひアリアで満喫してほしいです。ベーシックグレードのB6の2WDは、車両価格とあわせて魅力あるモデルだと思います」

 また富樫は、開発過程を踏まえてユーザーにこう語りかけた。
「アリアは日産が妥協することなく開発し、“これが電動化時代の新しい日産車です”と自信を持って言えるモデルに仕上がっています。ですので、ぜひ乗ってもらいたいです。新しい“NISSANNESS”を、目一杯に感じてください。きっと日産ファンになっていただけると思います」

 電気自動車を所有することによる新しいカーライフの誕生を予感させる新世代クロスオーバーEVの日産アリア。まずは今冬より、吉田と富樫が「軽量な車重で、EVならではのバランスの良い軽快な走りが楽しめる」と語った2WDのB6 limitedの販売が開始される。アリアが日本の多くのユーザーに届いて、“EVのある新しい生活”が次々と展開される――その風景を見るのが、今から楽しみだ。

Photograph:Yoshihiro Kawaguchi
Direction:AERA STYLE MAGAZINE