クルマを知る大人たちに捧ぐ

今も昔もクルマ好きの琴線に触れる存在であり続ける、日産の名車「スカイライン」。
この日本を代表するスポーツセダンに、新グレード「400R」が追加された。
最高出力400PSオーバーのエンジンを筆頭に、各所に独自の改良が施されたハイパフォーマンスセダンは、私たちにどのような世界を見せてくれるのか?
技術にこだわるからこそ実現できた、スカイラインならではの走りの妙味に触れる。

文=石井昌道/写真=荒川正幸

かつて“クルマ小僧”だった大人へ

控えめであることの美徳

小・中学校では、クラスの半分ぐらいの男子がクルマやバイクが好きで、休み時間はスーパーカー消しゴムでのバトルに明け暮れ、新型車が発売されたと聞けば、自転車でディーラーに赴いてカタログをもらう。そんな子供時代を過ごしてきた世代も、いまやいい大人となった。これまでの人生でさまざまなクルマを乗り継いできたことだろう。まだ財布の軽い若いうちは、スポーティーなグレードのハッチバック。少し稼げるようになったら本格派のスポーツカー。その後はライフスタイルやライフステージの変化によって、ステーションワゴンやミニバン、SUVなどにも手を出してみたりして、気付けば酸いも甘いもかみ分けられるクルマ通になっているはずだ。

そんな経験を積んできた者にとって新型スカイライン400Rは、あの頃のワクワク感を思い起こさせるひとつの理想形ともいえる。エクステリアはスタンダードなスカイラインと大きくは変わらないが、ガンメタ塗装の19インチアルミホイールと、その内側にのぞくアルミレッドキャリパーの対向ピストンブレーキ、専用のブラック塗装ドアミラー、そしてテールエンドに燦然(さんぜん)と輝く400Rバッジなどで、圧倒的なパフォーマンスを内に秘めていることをさりげなく主張している。古くからのクルマ好きならば、「羊の皮をかぶった狼」がスカイライン伝説の重要なファクターだと知っているはずだ。

  • 1957年の誕生以来、半世紀を超える歴史を重ねてきた日産スカイライン。
    押しも押されもしない、日本を代表するスポーツセダンである。

  • 「400R」は13代目となる現行「スカイライン」の中でも、特に走りに注力した高性能グレード。
    高い動力性能を誇るが視覚的な差異化は控えめで、外装は上品にまとめられている。

  • ダッシュボードやドアトリムはもちろん、
    ルーフライニングまでブラックで統一された精悍(せいかん)なインテリア。
    「400R」では各所に赤いステッチが施されている。

  • 内装については、用いられる素材の品質、組みつけやステッチの精緻(せいち)さともに申し分なく、
    プレミアムブランドのインポートカーと比べてもそん色はない。

  • 「カーマインレッド」は鮮やかな発色と深みのある陰影が特徴のボディーカラー。
    抑揚のあるスカイラインのボディーとも相まって、
    光の当たり具合によりさまざまな表情を見せる。

  • 現在の「スカイライン」は2014年に登場。
    ハイパフォーマンスグレードの「400R」は、
    2019年9月のマイナーチェンジモデル発売時に追加された。

見るものを納得させる上質なアピアランス

今回用意された試乗車は、特別塗装色の「カーマインレッド」を身にまとっていた。日本語では「洋紅色」と呼ばれる深く鮮やかな紅赤色。ベースコートの高輝度アルミが光をキラキラと輝かせ、着色クリア層のナノ顔料が光の散乱を抑制して透明感を増す塗装となっており、発色が鮮やか。陰影が強く出るのでボディーの抑揚を美しく見せる。光の加減や角度で表情を変えていくのも、見る者を飽きさせない。

インテリアは、精悍(せいかん)なブラック基調に、レッドステッチを効果的に施すスポーツセダンの伝統的手法が用いられる。本革スポーツシートはダイヤキルティングでちょっとおしゃれをしているが、乗り込んでみればほどよくタイトで体の収まりがよく、サイドサポートも完璧。ステアリングやシフトノブはもちろん本革巻きで、手になじみがいい。派手さはさほどないが、上質で走ることに集中できる空間になっている。

エンジンに宿る日産のこだわり

パワーはもちろん“味わい”も魅力

そして何より、数々の走りのメカニズムが心を躍らせる。スカイライン史上初の400PSオーバーを実現したエンジン。日産独自のアルゴリズムを搭載したインテリジェント ダイナミックサスペンション(IDS)。世界初のステア・バイ・ワイヤ機構(※)である「DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)」にも専用セッティングが施されている。免許取得前からカタログのスペックや雑誌の情報で一喜一憂してきた者にとって、大いに期待が持てる内容だ。

昔ながらのイメージでは、エンジンはハイチューンになればなるほどピーキーになり、速く走れる反面、普段使いでは扱いづらくなるものだが、400Rはまったくそんなことはない。低回転域から豊かなトルクがあって、むしろ扱いやすい。もっともこれは、今どきのパフォーマンスと燃費性能を両立したターボエンジンの常識ではある。一方で、直噴や高圧縮比で効率を追求していった“今どきのエンジン”では、ガソリンでもディーゼルのように音・振動が高まっていくことが多い。そんななかで、400Rはあらゆる回転域でシルキーな滑らかさでドライバーを魅了する。マルチシリンダーのメリットと徹底したフリクション低減などが功を奏しているのだろう。

  • ※ステアリングの動きを電気信号に置き換えてタイヤを操舵するシステムの量産車搭載が世界初(2019年7月現在 日産調べ)。
  • 今回の試乗は、東京・丸の内と神奈川・箱根を往復するルートで実施。
    市街地、高速道路、ワインディングロードと、
    さまざまなシチュエーションで「400R」の走りを試した。

  • 「400R」に搭載される3リッターV6ツインターボエンジン。
    標準モデルのV6ターボを大幅に上回る、
    405PS(298kW)の最高出力と475N・m(48.4kgf・m)の最大トルクを発生する。

  • メーターは、優雅なリングのデザインが目を引く2眼式。
    アクセルを踏み込むと、エンジン回転計の針がスムーズに跳ね上がる。

  • 適度なホールド性と心地よい座り心地を備えたスポーツシート。
    表皮は肌触りのよい本革で、サイドボルスターにはダイヤキルティングが採用されている。

  • 後席にも、レッドステッチやダイヤキルティングといった前席と同じ意匠を採用。
    他のグレードとは異なり、「400R」には6:4の分割可倒機構が標準装備される。

  • 「400R」は1リッターあたり135PSという高出力を発生しながら、
    自然吸気エンジンに比肩するレスポンスのよさや、
    シルキーでスムーズな回転フィールも実現している。

高出力化とレスポンスアップを両立する秘訣

400Rのエンジンが扱いやすいと感じられるのは、発進時など超低回転域でもターボラグがほとんど感じられず、3.7リッター自然吸気の「VQ37VHR」などと同等のレスポンスで加速が始まることが大きい。小径のタービンとコンプレッサーを搭載しているため応答性に優れるのだが、それで405PSを達成しているのは驚きだ。

一般的には、大径タービンにしなければスタンダードモデルに対して100PS以上ものパワーアップなど不可能に思えるが、その秘訣(ひけつ)は過給圧を正確に測るターボ回転センサーの採用にあった。一般的な過給圧センサーでは、気体の特性もあって制御までに時間的なズレが生じるため、ターボの過回転を防ぐようある程度の安全マージンをとる、すなわち過給圧を低めに設定する必要がある。これに対し、ターボ回転センサーを用いれば正確性が高まるので、回転限界領域まで使い切ることができる。それで400Rのエンジンは、過給圧をスタンダードモデルの9.5psiから14.7psiへと大幅に高めることができたのだ。またエキゾーストマニホールドとヘッドが一体式でターボとの距離が近いこと、日産車で国内初となる水冷式インタークーラーの採用によりコンプレッサー下流の吸気容積を最小化できたことなども、応答性の向上に寄与している。

専用の心臓がもたらす胸のすく走り

世界が認めた「VR30DDTT」

こうした改良点もさることながら、400R専用エンジンの素晴らしさは、そもそも「VR30DDTT」の素性のよさによるところが大きい。

「10ベストエンジンアワード(米Wards AutoWorld magazine主催)」を2年連続で受賞したこのエンジンは、86.0mm×86.0mmのスクエアなボア×ストロークからもわかる通り、パフォーマンスと燃費を高次元でバランスさせたものだ。高効率化の追求は取り入れられた技術にも見られ、溶かした鉄をシリンダーボア内に吹き付けて鏡面仕上げとするミラーボアコーティングは、鋳鉄ライナーの省略による冷却性能向上とフリクション低減を実現。可変角が大きくとられた電動VTC(可変動弁システム)は、緻密な制御が可能なのであらゆる回転域で最適なバルブタイミングをトレースできる。

  • 箱根のワインディングロードで「400R」の走りを試す筆者。急峻(きゅうしゅん)な上り坂でも、
    400Rのエンジンはドライバーのアクセルワークにリニアに反応する。

  • 高い動力性能を備えながら、
    より現実に近いWLTCモード計測で10.0km/リッターという燃費性能を実現している。

  • 手触りのよい本革巻きのシフトセレクター。
    トランスミッションはトルコン式の7段ATで、
    ダウンシフト時にエンジン回転数を合わせるシンクロレブコントロールが備わる。

  • 絶妙な操作フィールが心地よいシフトパドル。
    「400R」にはクロームメッキとダーククリア塗装を組み合わせた、専用のパドルが装備される。

  • 左右2本出しのだ円エキゾーストが奏でる音は控えめで、
    回転数が上がるほどに高まっていく、澄んだエンジンサウンドを楽しむことができる。

  • 赤いアルミの対向キャリパーが目を引くブレーキ。
    「400R」では動力性能の向上に合わせてブレーキも強化されており、
    フロント、リアともに大径のディスクローターが装備される。

わかっている人の心に訴えかける

アクセルを深く踏み込めば、400Rはテールをわずかに沈めながら鋭く加速していく。わずか1600rpmから475N・mもの大トルクを発生するのだから力強いのは当然だ。前述のようにターボらしからぬ応答性のよさがありつつ、過給効果で大トルクが持続するので、中間加速にも迫力がある。瞬間的にホイールスピンしそうな気配をうかがわせつつも、しっかりと後輪で路面を捉えながら猛然としたダッシュを始め、エンジン回転が高まっていっても、背中がシートバックに押しつけられる感覚が続く。最大トルクは5200rpmまで持続し、それ以上の回転域でも落ち込みは少ないのでパワーはまだまだ上がり続ける。最高出力の405PSは6400rpmで発生。メーター読みでは6600rpm程度まで回るが、もっと回してもいけそうなぐらいに、その回転は伸びやかだ。

ハイパフォーマンスなスポーツセダンとしてはエンジンサウンドの音量は大きくないが、5000rpmあたりから咆哮(ほうこう)が甲高くなり、回転が上がれば上がるほど活発になっていく音質にしびれる。エキゾーストノートよりもエンジン本体の澄んだサウンドが中心だから、官能的にして上品。わかっている大人のためのスポーツセダンだ。
7段のトルクコンバーター式ATはギアチェンジの速さ、ダイレクト感、ダウンシフト時の緻密なシンクロレブコントロールなど、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に勝るとも劣らないスポーツ性をみせる。カチッとしていながらも滑らかな絶妙のタッチをもつパドルシフトの操作感とも相まって、積極的にマニュアルシフトしたくなる。

先進技術がかなえる一体感

たゆまぬ進化を実感させる操舵フィーリング

登場から5年の時を経たDASも、フィーリングが改善されている。物理的なシャフトやリンクを介さず、ステアリングの動きを電気信号に置き換えてステアリングアングルアクチュエーターに送り、タイヤを操舵させるDASは、ドライバーの操作に対する車両の応答遅れを極めて小さくできる。既存のステアリング機構とは違って、各部のねじれや弾性などによる影響がないからだ。

また、応答遅れを補う制御を加えても、ステアリングに余計な反力などの影響をもたらさないのもメリット。ドライバーのステアリング操作から望んでいるヨーレート(曲がる方向への変化の速度)を計算し、操舵角を“先読み”で決めていくことができるため、既存のメカニカルなステアリングシステムではあり得ない、より一体感のあるハンドリングを生み出せるのである。

ステアリングフィールは、モーターによって疑似的に発生させているが、そこが大きく進化しているため、スポーツドライビングにおいても一体感が増している。雑味となる情報はシャットアウトされ、タイヤと路面のコンタクト状況といった、欲しい情報だけが伝わってくるのだ。

  • 現行「スカイライン」の中で唯一電子制御サスペンションを標準装備する「400R」。
    減衰力の可変幅が大きい電磁式比例ソレノイドダンパーの採用により、緻密な制御を実現している。

  • ステアリング・バイ・ワイヤ機構については、
    切り始めのレスポンスを高めることでライントレース性を向上。
    低速から中速での操舵の過敏さを抑えつつ、応答性を向上させた。

  • ドライブモードセレクターの操作スイッチ。「ECO」や「SPORT」といった5つの走行モードに加え、
    ドライバーが走りをカスタマイズできる「PERSONAL」モードも用意される。

  • 「400R」専用のガンメタリックの19インチアルミホイール。
    ダンロップの高性能スポーツタイヤ「SP SPORT MAXX 050 DSST CTT」が装着されていた。

  • 高い動力性能と後輪駆動ならではの操る楽しさを備えた
    「スカイライン400R」は、走りを高めるさまざまな技術を有し、
    スポーツセダンの魅力を知り尽くしたエンジニアがいたからこそ、実現し得たモデルだった。

  • 全長×全幅×全高=4810×1820×1440mm/ホイールベース=2850mm/車重=1760kg/
    駆動方式=FR/エンジン=3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ(405PS/6400rpm、475N・m/1600-5200rpm)/
    トランスミッション=7AT/燃費=10.0km/リッター(WLTCモード)

クルマを知る人にこそ乗ってほしい

IDSはタイヤ回転速度、操舵角、ヨーレート、横G、ドライブモードなどの情報を集約させ、約100分の1秒単位でダンパーの減衰力を最適制御する。400Rの独特なところは、タイヤ回転速度を細かくセンシングしているため、車両姿勢を把握する正確性が高く、制御が緻密なことだ。

たしかに一日中ワインディングロードを走り回っていても、減衰力の変化はまったくもってドンピシャ。他のモデルでは「こういう場面ではもう少し硬いほうがいいな」とか、「ちょっと突っ張りすぎじゃないか」などと不満を抱くこともあるが、400Rは常に最適なロールスピードで応え、理想的なコーナリング姿勢を整えてくれる。ステアリングの操舵角が大きくなるタイトコーナーではクルリと気持ちよく曲がり込んでいき、高速コーナーではどっしりと安定して、安心感をもって駆け抜けていける。405PSのハイパフォーマンスを後輪駆動で成立させるシャシーは、基本性能の高さに加えてDASやIDSの恩恵があってこそ。400Rは往年の“技術の日産”を象徴するモデルなのだ。同時に、これらの先進装備を通して魅力的なスポーツセダンを形にできる、走る楽しさを知り尽くしたエンジニアがいればこそのモデルでもある。

オーソドックスなセダンでありながら圧倒的なパフォーマンスを秘め、先進技術でドライバーと一体となる400R。多くの経験を積んでクルマへの造詣が深まった者ほど、この価値の高さがわかるだろう。

ギャラリー