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父の背中を見ながら築き上げた鉄筋一筋親子の絆
完璧な品質を求めて
完璧な品質を求めて
 ビルやマンションを始めとする現代の様々な建造物には、『鉄筋』と呼ばれる金属の芯材が組み込まれている。鉄筋業の現場で働く職人たちは、日々、何本も束ねたその鉄筋の山を担ぎ上げ、定められた長さに切断し、『ハッカー』と呼ばれる工具や電動結束機を使って、基礎となるその骨組みの一本一本を、丁寧な手技で組み上げていく。 
「一番こたえるのは、炎天下に重たい鉄筋を担ぎ上げる瞬間。あと、冬の冷たい雨も。共通しているのは、どの季節でも一日中、汗だくってことくらい」

現場を仕切っている親方の徳田が、結束線で鉄筋を結ぶ手を休めることなく続ける。
「この一本を忘れただけで、建物を取り壊して造り直すこともあるくらい、厳しい基準があるんです。日常的に求められているその品質に、完璧に応えること。無口でもいいから、とにかく真面目で、人より神経質なくらいの方が向いているかもしれません」
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 株式会社徳田鉄筋は、職人歴13年目になる徳田直人が営む会社だ。そもそもが徳田の父は筋金入りの鉄筋職人。弟もその跡を継ぐようにして、現場の道へ進んだ。家族の中で唯一、大学へ進学した徳田が現場の世界へ飛び込んだのは、23歳の頃だった。
「怒鳴られ続けながらも、ひたすら綺麗に、素早く鉄筋を組むことだけに心を砕いてきました。でも、実際にこの仕事を始めるまでは、現場や鉄筋の仕事が好きではなかったんです」
 そんな徳田が現場に入るきっかけとなった父からの一言がある。

「人生、やりたいようにやれ。ただ鉄筋の仕事なら、やった分だけ稼げるぞ、と。最近では随分丸くなりましたが、当時の親父は、周りの職人からも“鬼の徳田”と呼ばれるくらい怖かった。この仕事について真剣に考えるようになったのは、そんな親父の下で働き始めたのがきっかけです」
 以来、やるからには稼げるようになってやると、必死で仕事を覚えてきた。時には父に、鉄筋でヘルメットを割られるほど殴られることもあったという。

「目で見て盗めって、よく言うでしょう? 本当にそれしかないんです、親父は。昔気質な性格で、言葉で巧く教えてくれるタイプではなかった。そのかわり、全部自分でやって見せて、この仕事に必要なすべてを教えてくれたんです。なんだかんだ言って、尊敬しています」

今では徳田の請け負う現場に、弟と父がいる。
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厳しさの裏にあるもの
厳しさの裏にあるもの
 普段は穏やかに話す徳田だが、現場の職人たちに向けて激しい檄を飛ばすこともある。

「(仲間たちからは)厳しいと男だと思われているかもしれないですね。でも、気を引き締める意味でも、あえてそういう言葉を使わなければいけない場面もあるんです」 
 現在、徳田の会社に所属している職人は六人。時には自分より、年齢もキャリアも上の職人を使わなければいけない現場もある。そんな時ほど、普段以上に厳しい言葉で態度を示すことができなくては、現場で上に立って働くことはできなかったそうだ。
「同級生だった妻が、今では経理のほとんどをやってくれているのも助かっています。会社として動かすには、そういう仕事も必要ですから。責任ある立場だからこそ、自分で現場に立って、仕事で納得してもらう。品質に対するこだわりは誰よりも強いと思っています」
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やりがいは知らない
やりがいは知らない
 徳田に、仕事のやりがいを聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

 「……やりがいって、何でしょうね。考えたこともなかったです。自分の場合は、配筋検査というコンクリートを打つ前の構造検査で、プロの人に『綺麗にできてますね』と言ってもらえると嬉しい。造ったものに完璧な自信を持っているし、その評価が次の仕事にもつながってきますから」
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——— あなたにとって『プロフェッショナル』とはなんですか?

「日常的に完璧を追い求める姿勢、ですか。少なくとも、そこを目指していますね」
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1981年08月19日
(東京都江戸川区)

職種:鉄筋業

職歴:13年

会社名:株式会社徳田鉄筋

大きな改造を施さず、元々の広々とした荷室の空間に、職人全員分の電動工具を立体的に積み込む。上部にポールを設置することで、被り終えたヘルメットや手袋など、通気性が求められる道具をぶら下げておけるようになっている。