富士スピードウェイ

重要なのはコミュニケーションとチームワーク。

ピットワークの素早く、キビキビとしたムダのない動き。彼らは、私にとっても輝かしく憧れの存在である。そのチームの一員として参加できるこのプロジェクトは、夢のような出来事だった。参加したのはスーパーGT第2戦、ゴールデンウィーク中の富士スピードウェイだ。
まず、ファクトリーでマシンの特徴や注意点などの説明を聞きながら、実地作業を行った。チームのメカニックとペアになり、点検方法や調整方法などきめ細かく学ぶことができた。
サーキットでは、誰が何を担当するかがはっきりと決まっていて、またすべての作業にチェックリストがあり、進捗状況がひと目で分かるように工夫され、車両の状況がチーム全体で共有されていた。ここに、ひとつひとつの作業をスピーディに正確に行う秘訣があると確信した。
監督、ドライバー、エンジニア/メカニックなどチームが一丸となって初めて、勝利と安全な走行が手にできる。コミュニケーションとチームワークの大切さ。これはレースに限ったことではなく、毎日の業務にも絶対不可欠な事である。

めざすは、チーム力を磨くこと。

スーパーGTのようなカーレースは、チームワークが勝利のカギを握ると言われているが、まさしく今回そのことを実感した。メカニックはマシンをベストコンディションに調整・整備し、レース中は状況に応じてメンテナンスを行い、天候の変化や万一のアクシデントにも迅速に対応しなければならない。驚いたのは、何事にも測定が必要で、ネジのゆるみひとつとっても、入念にチェックを重ねる。ここまでやるのかという印象だった。
ピット作業では段取りがつかめず、少しとまどった場面があり、悔しさを味わった。メカニックも共に闘っているのだと、本当にそう感じた。短い時間だったが、チームの一員としての意識が湧いてきたのかも知れない。
一人一人がそれぞれの役割を理解し、きっちりと作業を遂行することが、チームワークの出発点にちがいない。目的に向かいチャレンジする気持ちや、チームとしてひとつのことをやり遂げることの喜びは、何事にも代えがたい。だからこそ日常の仕事にも、信頼し合い、協力し合うチーム力を磨きたいと強く思った。

レースで手にしたふたつの歓び。

このプロジェクトに参加して、大感激のできごとがふたつもあった。ひとつは、自分が整備サポートしたマシンがポールポジションを獲ったことだ。
公式予選日、我々のマシンは予選Q1で2番手につけ、続く予選Q2の素晴らしいアタックによりポールポジションを獲得。ピットではスタッフ全員が歓びを分かち合った。ドライバーのサッシャ選手のご両親も大歓びだった。家族ぐるみでレースを楽しむ様子が、とてもいいなと感じた。
ふたつめの感激はレース後だった。メカニックチームを対象とした「ZF Award」を、我々 GT300クラス「KONDO RACING」56号車が受賞したのだ！ 受賞理由は「学生およびディーラー・メカニックとの混成チームながら、SUPER GTデビュー2戦目でポールポジション獲得をサポート。決勝でも2度のピット作業をミスなくこなし、4位入賞を後押しする活躍でした。」
これはまさに、自分たちへの評価だ。初めてのサーキット体験でいただいた身に余る栄誉。メカニック人生の中で、きっと忘れられない思い出になるだろう。

すべてはミスのない整備のために。

レースウィークの全作業を通じて強く思ったのは、レース車両でも一般車両でも整備ミスは絶対に許されないということだ。なぜなら、そこには乗る人のかけがえのない命がかかっているからだ。そのためには、事前の確認や準備がいかに大切かも実感した。
横浜のファクトリーで事前整備作業をした日、ショックアブソーバーのバネレートを何度も変更し、そのつど、キャンバー、トー、キャスター、車高などのデータを細かく確認した。サーキットでの調整をスムースにするために、事前データをしっかり蓄積しておくのだ。
また整備には、一般車以上に特殊工具(SST)を使う場面が多い。工具の選択を誤れば部品を破損することもあり、使う部位と使い方をしっかり理解しておくことが重要だ。
事前整備にしろピットでの整備にしろ、何をやるにもデータ取得と検証が徹底される。レースメカニック達の神業的とも言える正確かつ迅速な作業は、こうした準備作業があってなし得るのだと知った。

この経験を日々の行動に活かしたい。

富士スピードウェイで行われるスーパーGT第2戦。このメカニックチャレンジでは、サーキットに行く前にファクトリーでの事前講習を受ける。そこでは車両重量の測定・調整、ダンパーの着脱、タイヤ交換、ホイール清掃など実地練習を行った。緊張感と焦りで手間取った部分もあったが、正確な作業はもちろん、作業スピードが要求されるレースでは臨機応変に対応することも重要なのである。常に頭を働かせ、状況を予測・確認して余裕をもって行動することが大切だと再認識した。
日を追うごとに次は何をしなければいけないのかわかるようになり、レース中もピットでの作業もスムースに行えた。どんな場面でも、焦らず正確に。レースメカニックの動きを間近に見ているだけでも、すごく勉強になる。
この6日間は、私にとってとても充実した時間であり、吸収することがいっぱいあった。この貴重な経験をみんなに語り続けていきたいし、ファクトリーやサーキットで行っていた行動を日々の仕事にぜひ取り入れていきたい。

思いがけない体験、憧れのGT500ピットへ。

私たちのGT300ピットには、KONDO RACINGのスタッフがいて、我々日産ディーラーからのTSがいて、そして日産自動車大学校の学生も参加している。仲間が多いのは頼もしいかぎりだが、作業の割り当ても複雑になってくる。そこで決勝前日の予選日、何名かがGT500のピットへサポートにまわることになり、私もそれに参加した。
GT300マシンの整備も楽しみだったが、日本最強マシンとも言えるGT500を間近に見て、さわれるとは、これはもう大興奮の体験だ。さすがに、GT500の整備をすぐに任せてもらうことはできない。しかし、事前のファクトリーで学んだことを思い出しながら、ピットでの時間を共有している間、整備テクニックや作業速度アップのためのノウハウがとても参考になった。憧れのGT500マシンに触れる刺激的な体験。そして、ていねいに何でも説明してくれたスタッフの方々との出会い。ぜひまたここに、参加したいなと思った。